「そろそろ法人化を考えている」という個人事業主の方から、よくこんな相談を受けます。「売上がいくらになったら法人にすればいいですか?」——実はこの質問、売上だけで判断するのは危険です。法人化には正しいタイミングがあり、間違えると節税どころか余計なコストがかかることもあります。今回は法人化を検討するすべての方に知っておいてほしい「タイミングの目安」と「ありがちな落とし穴」を解説します。
個人事業主の所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率が上がります。課税所得が695万円を超えると税率は23%、900万円を超えると33%になります。一方、中小法人の法人税率は原則23.2%ですが、資本金1億円以下の中小企業は年800万円以下の所得に対して軽減税率15%が適用されます。
たとえば課税所得が1,000万円の場合、個人事業主のままだと所得税・住民税・事業税を合わせた実効税率はおよそ43%。法人化すると法人税・住民税・事業税の合計実効税率はおよそ33%程度に下がります。差額は約100万円にもなることがあります。
個人事業主は国民健康保険に加入していますが、所得が高くなるほど保険料も上がります(上限あり)。法人化すると役員報酬を適切に設定することで、社会保険料の総額を抑えられる場合があります。特に配偶者を役員にして報酬を分散する方法は、家族全体の手取りを増やす効果的な手法です。
大手企業や官公庁との取引では、法人格を求められるケースが増えています。売上・節税の観点だけでなく、ビジネス機会の拡大という視点も法人化の重要な動機になります。
法人には、たとえ赤字であっても毎年最低約7万円(都道府県分2万円+市区町村分5万円)の住民税均等割がかかります。個人事業主の場合は赤字なら所得税はゼロですが、法人はそうはいきません。売上が安定していない創業初期に焦って法人化すると、このコストが重くのしかかります。
法人の役員報酬は、原則として事業年度開始から3か月以内に決定し、原則1年間は変更できません(定期同額給与のルール)。個人事業主のように利益に応じて自由に生活費を引き出すことはできなくなります。資金繰りの計画が甘いと、想定外の資金不足に陥るリスクがあります。
法人は健康保険・厚生年金への加入が強制です。役員報酬が月30万円の場合、社会保険料(会社負担分)は月およそ4〜5万円。年間50万円以上のコスト増になることもあります。法人化後の手取りを計算するときは、この社会保険料を必ず考慮してください。
個人事業主の確定申告は比較的シンプルですが、法人の決算申告は複雑で、専門家に依頼するのが一般的です。税理士報酬の相場は年間30万〜80万円程度(規模による)。また、法人登記・定款作成などの設立コストも約25〜30万円かかります。これらの固定コストを節税メリットが上回るかどうかを事前に試算することが必須です。
法人化すると、会社のお金と個人のお金は完全に別物です。会社の口座から個人的な支払いをすると「役員貸付金」として処理され、場合によっては税務調査で問題になることもあります。法人化後は資金管理のルールを厳格に守る意識改革が必要です。
逆に、売上が不安定な時期や、法人化後のコスト増を賄える利益水準に達していない段階での法人化は、メリットよりデメリットが大きくなりがちです。「とりあえず法人化しておけば節税になる」という思い込みは禁物です。
法人化の判断は、現在の売上・所得・事業形態・将来計画によって大きく変わります。「自分の場合はどうなのか?」を正確に判断するには、実際の数字をもとにシミュレーションを行うことが欠かせません。
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