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金利上昇が中小企業の企業価値と事業承継に与える影響と今すぐ取るべき対策

資金繰り
2024年以降、日本銀行のマイナス金利政策解除を皮切りに、金利上昇が現実のものとなりました。中小企業の経営者にとって、金利上昇は単なる「借入コストの増加」にとどまらず、企業価値の評価額そのものや事業承継の計画に大きな影響を与える問題です。本記事では、金利上昇が自社の企業価値と事業承継にどう影響するかを具体的な数字とともに解説し、今から取るべき対策をお伝えします。

金利上昇の現状と中小企業への波及経路

日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も段階的に利上げを進めています。政策金利は2023年末の▲0.1%から、2025年初頭には0.5%前後まで上昇。変動型の短期プライムレートも連動して動き、中小企業向け融資の実行金利は従来の1.0〜1.5%水準から、2.0〜3.0%近くまで上昇しているケースも見られます。

たとえば、残高1億円の変動金利借入がある場合、金利が1.0%から2.5%に上昇すると、年間の利息負担は100万円から250万円へと150万円増加します。5年間で見れば750万円のキャッシュアウトとなり、中小企業の経営体力に直接影響します。

金利上昇が経営に影響する3つのルート

  • 直接コスト増加:既存の変動金利借入・新規調達コストの上昇
  • 企業価値の圧縮:将来キャッシュフローの現在価値(DCF)が低下
  • 事業承継コストの変動:自社株評価額や相続税負担への間接的影響

金利上昇が企業価値の評価額を下げるメカニズム

M&Aや株式譲渡、事業承継の場面では、企業の価値をどう算定するかが極めて重要になります。代表的な評価手法のひとつがDCF法(Discounted Cash Flow法)です。これは将来の予想キャッシュフローを「割引率」で現在価値に換算する方法ですが、この割引率が金利水準と連動して上昇するため、金利が上がると企業価値が下がるという逆相関の関係があります。

DCF法で見る具体的な影響試算

わかりやすい例として、年間営業キャッシュフロー2,000万円、成長率1%が期待される企業を想定します。

  • 割引率5%の場合:企業価値 = 2,000万円 ÷(5%−1%)= 5億円
  • 割引率7%の場合:企業価値 = 2,000万円 ÷(7%−1%)= 約3億3,300万円
  • 割引率9%の場合:企業価値 = 2,000万円 ÷(9%−1%)= 2億5,000万円

割引率が5%から9%に上昇するだけで、同じキャッシュフローを生む会社の価値が5億円から2億5,000万円へと半減します。これは実際のM&A市場でも起きていることであり、「業績は変わっていないのに買い手からの評価額が下がった」という声が増えている背景のひとつです。

類似会社比較法(マルチプル法)への影響

上場類似会社のPER(株価収益率)やEV/EBITDAを使う比較法でも、金利上昇は上場株全体のバリュエーション低下を通じて波及します。たとえば製造業の平均EV/EBITDAが8倍から6倍に低下すれば、EBITDAが5,000万円の中小企業の評価額は4億円から3億円へと1億円目減りします。

事業承継における自社株評価と相続税への影響

後継者への自社株の引き継ぎを伴う事業承継では、相続税法上の自社株(取引相場のない株式)の評価額が税負担の大きさを左右します。中小企業の自社株評価には主に「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」が用いられます。

類似業種比準価額方式への影響

この方式は、上場類似会社の株価を比準要素(配当・利益・純資産)と比較して算定します。金利上昇局面では上場株式全体の株価が下落する傾向にあるため、比準元となる類似業種の株価が下がれば、自社株の評価額も連動して下がります。

これは一見「節税になるのでは?」と思われがちですが、タイミングを見誤ると逆効果です。金利上昇局面は同時に業績悪化リスクも高まるため、利益・配当の比準要素が上がっているうちに計画的に株式を移転させる戦略が重要です。

純資産価額方式と金利の関係

純資産価額方式は、会社の保有資産を時価評価して算定します。金利上昇により債券・不動産など保有資産の時価が変動するほか、借入負債の実質コストが増し、実態純資産が目減りするケースもあります。特に不動産を多く保有する資産管理会社型の同族企業では、金利上昇と不動産価格の動向を慎重に見守る必要があります。

金利上昇局面でのM&Aと第三者承継への影響

親族内に後継者がいない場合、M&Aによる第三者承継を選択する経営者が増えています。しかし金利上昇は買い手側の買収ファイナンス(LBOローン)コストを上昇させ、買い手が出せる上限価格を引き下げる方向に働きます。

日本M&Aセンターや中小企業庁の統計によれば、中小企業のM&A件数は2023年時点で年間4,000件超に達していますが、2024年以降は「希望売却価格と買い手の提示価格のギャップが広がった」という仲介業者の声も出ています。

売り手が取れる対抗策

  • 収益力の可視化:正常化EBITDA(オーナー報酬・一時費用を調整した真の収益力)を明確にし、割引率上昇を吸収できる収益実績を示す
  • 早期のマーケティング開始:金利がさらに上昇する前に売却プロセスを開始する
  • アーンアウト条項の活用:基本譲渡価格を抑えつつ、業績連動の追加対価で総額を補完する交渉手法

中小企業経営者が今すぐ取るべき具体的な対策

1. 既存借入の金利固定化・借換えの検討

変動金利の既存借入がある場合、固定金利への切替えや借換えを金融機関と交渉することが有効です。固定金利への切替えには手数料が発生することもありますが、今後2〜3年で政策金利がさらに0.5〜1.0%上昇する可能性を踏まえれば、長期固定で利息コストを確定させるメリットは大きいです。

2. 企業価値を高める「EBITDA改善」への投資

金利上昇で割引率が上がっても、分子にあたるキャッシュフロー自体が増えれば企業価値は維持・向上できます。不採算事業の整理、固定費の変動費化、サブスクリプション型収益モデルへの転換など、利益の質と安定性を高める施策が企業価値防衛の本質です。

3. 事業承継計画の前倒しと顧問税理士との協議

自社株評価額は毎年変動します。金利上昇・業績変動・市場環境の変化によって評価額が大きく動く局面では、贈与・売買・持株会の活用など複数の移転スキームを組み合わせた計画が不可欠です。特に60歳以上のオーナー経営者は、「まだ先でいい」と先送りにせず、今期中に税理士・M&Aアドバイザーと事業承継計画を策定することを強くお勧めします。

4. 財務デューデリジェンスに備えた帳簿整備

M&Aでの売却を視野に入れる場合、買い手側が必ず実施する財務デューデリジェンス(財務DD)に耐えられる帳簿・財務資料の整備が必要です。架空在庫・不明確な仮勘定・オーナー個人と法人が混在した取引などが発覚すると、評価額の減額交渉材料にされます。少なくとも直近3期分の申告書・決算書・総勘定元帳を整理しておきましょう。

よくある質問

Q. 金利が上がると自社株の評価額は必ず下がるのですか?
A. 必ずしもそうではありません。自社株の評価額は類似業種の株価水準・自社の利益・配当・純資産の3要素で決まります。金利上昇で上場株価が下落すれば類似業種比準価額は下がる傾向がありますが、自社の業績(利益)が拡大していれば評価額が上昇するケースもあります。毎期の決算後に評価額を試算することが重要です。
Q. 事業承継税制の特例措置は今から申請できますか?
A. 特例措置の適用には、2027年12月31日までに都道府県に「特例承継計画」を提出する必要があります。計画書の作成には税理士・認定経営革新等支援機関の関与が必要なため、今すぐ着手することをお勧めします。贈与・相続の実行自体は2035年12月31日まで可能です。
Q. 金利上昇の中でM&Aによる売却を急いだほうがいいのでしょうか?
A. 「急ぐ」より「準備を整えて早期に動く」が正確な表現です。M&Aプロセスには通常6ヶ月〜1年半かかります。金利がさらに上昇する前に交渉を開始できるよう、まず財務書類の整備と希望条件の明確化を今すぐ始めることが賢明です。焦って条件を下げる必要はありません。
Q. 変動金利の借入を固定金利に切り替える際、税務上の注意点はありますか?
A. 固定金利への切替え時に発生する「期限前弁済手数料(ブレークコスト)」は、損金算入できます。また借換えに伴う保証料・事務手数料も費用計上が可能です。ただし金融機関や契約内容によって処理が異なる場合があるため、借換え前に顧問税理士に確認することをお勧めします。
Q. 親族内承継とM&Aのどちらが金利上昇局面では有利ですか?
A. それぞれに一長一短があります。親族内承継は事業承継税制を活用した納税猶予が使えるため、自社株の評価額に関わらず税負担を抑えられる可能性があります。一方、M&Aは現経営者が現金対価を得られますが、金利上昇で買い手の評価額が下がりやすい局面でもあります。後継者の有無・売却希望額・タイムラインを総合的に考慮した上で、税理士やM&Aアドバイザーと方針を決めることが大切です。

金利上昇時代の事業承継・企業価値対策は、早めのご相談が鍵です

金利上昇は、企業価値の評価額・自社株の相続税評価・M&Aの売却価格など、事業承継に関わるあらゆる要素に影響を与えます。「まだ先の話」と先送りにしていると、有利なタイミングを逃してしまう可能性があります。

当事務所では、中小企業の事業承継・企業価値評価・節税対策に豊富な経験を持つ税理士が、現状分析から具体的な承継スキームの設計まで丁寧にサポートします。初回相談は無料で承っておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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